山田様が未来会計業務に携わるようになった経緯をお聞かせください。
きっかけは高校生のときの政治経済の授業です。その頃からニュースや経済番組を見るのが好きで、周りが漫画やアニメに興味を持つなか、私は「ガイアの夜明け」や「プロジェクトX」を父親と一緒に見ていたような、すこし変わった高校生でした。あのような番組を見て、「経営ってなんかかっこいいな」という思いが漠然とありました。
そのため、大学では経済学部に進みました。しかし実際に勉強してみると、経済学って数学っぽいというか、あまりリアルな会社の話は出てこないんですよね。世の中の実態とはかけ離れているようで、当時の私はおもしろさをあまり感じませんでした。そこで、通っていた大学は経営学部の授業も受けることができたので、経営学の授業を受けてみたら結構おもしろくて。先生が実際の企業の事例などを取り上げてくれるので、とてもワクワクした覚えがあります。
大学卒業後は、不動産販売会社に就職し、営業職として働きました。経営に近いポジションで仕事がしたいという思いはあったのですが、まずは営業を経験しようと考え、29歳まで営業として勤めていました。30歳を前にして転職を考えたとき、もともとやりたかった経営に関する仕事をしようと思い、広くコンサルの職種で選考を受けました。そんななかで採用されたのがビジネス・デザインでした。正直、未来会計という言葉は入社してから理解したというのが本音です(笑)。面接でそのような話はされていたはずですが、当時の私はとにかく「はい、頑張ります!」と乗り切っていたので、そこまで深く理解していなかった記憶がありますね。
入社してすぐ、未来会計の専任担当者として仕事が始まりました。OJTで先輩や上司の現場に同行して、社長とのやりとりや、質問の仕方などをひたすら聞いていました。前職の営業の経験もあって、「この質問の次にはどう返すのが良いだろう」「こういう言い方をすると社長はどう返すんだろう」みたいなことを、ずっと頭の中で考えていましたね。
未来会計業務のやりがいを感じる瞬間や印象的なエピソードはありますか?
まず未来会計業務に携わるようになって思ったのは、「未来会計って本当に売るのが難しい」ということです。前職ではマンションという目に見える商品を売っていたので、その価値は非常に明確でした。でも今は見えないサービスを売っているんですよね。初めましての社長には「大事なことはわかるけど結局何をしてくれるの?」と言われることもあります。未来会計の良さをどう理解してもらって、どうやって契約につなげるかという難しさを感じます。
そんななかでも、やっていて良かったと思う瞬間はあります。それは、お客様が中期計画を立てて、5年後に目標達成したときです。実際には5年プラス1年、つまり6年目にその中期計画の数字を達成したという場面に立ち会いました。5年前の将軍の日でその計画を立てたのは前任の担当者だったのですが、私が引き継いだあとに目標が達成されたんです。売上や利益が上がって、人も増えていて。それが数字としても見えていたので、達成感がありました。自分が成果をあげて達成したというよりは、お客様が目標を達成するのを目撃した、という感じです。
そのとき「ああ、この仕事ってこういうパワーや影響力があるんだな」と実感しました。前職の「よし売れたぞ!」というわかりやすい達成感はあまりないですが、お客様が自分で立てた目標を達成する姿を一番近くで見られることに、やりがいというか、仕事冥利に尽きるなと感じます。
そう考えると、自分の仕事に対する達成感の捉え方が変わってきたのかもしれません。未来会計業務をやるようになってからは、「自分が成果を上げるぞ!」というよりも、「お客様が成果を上げているのを見て、自分も嬉しい」と感じるようになりました。
事務所の特徴や力を入れていることについて教えてください。
売上や単価という側面から見ると、1件あたりの単価を上げていこうという大きな方針を掲げています。たとえば、これまでは月額報酬10万円頂いていたところを15万円頂けるように、それに見合った価値を提供しようということです。
一方で、新しく人が入ってきたときにすぐ担当を任せられるような、“業務の標準化”も課題としてあります。ですが、あれもこれも標準化して誰でもできるようなサービスで件数を増やすという方向性ではなく、お客様の数は少なくても一人ひとりに合ったサービスを提供し単価を上げていく。悪い言い方をするとすこし属人的になってしまうかもしれませんが、我々はどちらかというとその方向性を目指すべきだと思っています。そのために、一人ひとりのレベルアップは必須です。
今私たちはフロントが3人、アシスタントが1人の4人体制です。私以外の2人は経歴が全然違っていて、1人は会計事務所出身、もう1人は金融機関出身です。私は不動産営業出身なので、3人ともバックボーンが違います。それぞれ得意分野も違うので、案件によって組み合わせを変えて複数名で担当を持つこともあります。また、アシスタントのスタッフが裏方として全体をすごく支えてくれていて、社内ではビジネス・デザインの母のような存在なんです。今はこの4人チームの阿吽の呼吸で、属人化しすぎず標準化しすぎず、ちょうど絶妙なバランスを取ることができています。
あとは最近だと、AIやChatGPTなど、新しいものをとにかく自分たちでまず試してみることに注力しています。常に私たちがお客様の一歩先を進んでいる状態が理想だからです。我々が最新の技術を取り込んで試してみて、それをお客様に価値として提供していけば、「ビジネス・デザインっておもしろい提案してくれるね」と喜んでもらえるきっかけになるのかなと。それを信じてやっているような状況です。
山田様の中期的な目標を教えてください。
そうですね。まずは私自身の売上を上げていくことです。関わるお客様を増やして、お客様に喜んでもらえる機会を今よりもっと増やしていきたいです。あとは育成ですね。今はまだ採用はすこし苦戦していますが、これからビジネス・デザインに入ってくるスタッフを育てる役割が私に求められるのかなと思っています。
組織全体としても、未来会計業務に携わる人を増やして体制を拡充しようという動きがあります。私たちの組織は未来会計と税務は完全に分かれているところが特徴なので、兼任担当者というのは基本的にいません。そんななか、税務で力をつけてからステップアップとして未来会計業務にいくというルートがあるので、1、2か月ほどMAS監査に同席させて実際に体験してもらうという取り組みもやっています。先日私と一緒に同行した税務のスタッフは、Ja-BIGさん主催のNBM研修に参加している若手の子だったのですが、これまで座学で教わってきたことと現実とのあいだにギャップがあることに驚いていました。たとえばMAS監査の流れを教科書的に言うと、まず計画を立て、そこからアクションプランを策定し、毎月進捗を確認して来月までにやることを整理するというのがセオリーですよね。でもそれがそのまま当てはまる先って意外と少ないじゃないですか。どの会社にも当てはまるものではないということが、「あれ、教わってきた話と違う」という気づきにつながったそうです。あと、「MAS監査のニーズはたくさんあるから営業はそんなに難しくないと思っていました」とも。「たぶんニーズはあるけど、いざ契約するとなるとその売り方が非常に難しいんだよ」と話すと、それも非常に驚いていました。
こういった取り組みを組織全体で今から行うことで、きっと数年後には税務部隊のほうから未来会計業務に取り組む人が出始めると思います。そのときにきちんと育成の心構えができるように、自分が入社したときに受けたOJT研修を振り返って、もっとよりよく改善できるところはないかブラッシュアップしていきたいと思っています。
未来会計部隊と税務部隊が完全分離になっているとのことですが、税務担当者からのお客様の紹介などはどのようにされているのでしょうか?
うちは、代表の小久保の発信がずっとブレずにあって、「未来会計を推進する会計事務所です」ということを継続的に言ってくれているんです。だから税務の人が未来会計を理解していない、紹介しないということは、他の事務所さんと比べるとあまりないと思います。税務のメンバーも、入社してすぐの段階で未来会計の研修に参加して、「こういうことをやっているんだな」と理解がある状態になっていますので。
税務部隊と未来会計部隊の連携の具体的な例をあげると、税務のスタッフに対して「今月将軍の日どうですか」と声をかけて、社内営業みたいなことも意識的にやっています。また、税務のお客様との会議に担当者と一緒に私たち未来会計部隊のスタッフが同席することもあります。そうすると普段のやりとりでは見えないような、社長の本音や経営課題が見えるので、お客様への理解が深まるという利点もあります。
自社将軍の日は毎月1回開催しています。ただ、集客は結構バラつきがあって、ゼロのときもありますし、多くても2~3社くらいですね。1社だけのときは、個別セミナーみたいな感じでやっています。税務の新規営業のときには、「うちはこういう取り組みをしているので、まず将軍の日に出てください」という案内もセットでしているので、そこ経由で来てくれるお客さんもいます。
開催スケジュールは半年から1年くらいのスパンであらかじめ決めておいて、そのうえで税務の人たちに案内していく、という流れです。
最後に、顧問先の経営支援がなかなかうまくいかないという人にメッセージをお願いします。
未来会計に取り組んでいて、「うまくいかないな」「誰に相談したらいいんだろう」と思っている方は多いと思います。そういうときは、まず外に出てみることをお勧めします。会計業界には研修や他事務所の人と交流する場が多いので、そういったところに出ることで相談できる相手が見つかるかもしれません。
私も上司にたくさん教わってきましたが、未来会計って本当に奥が深い。聞かないとわからないし、聞いたらもっとわからないって思うことが多いんですよね。でも、その奥深さを楽しむくらいの気持ちでいれば、なんとかやっていけるんじゃないかなと思います。
あと、困ったときは社長に「どうしたいですか」「どうなりたいですか」って聞くのが一番です。その答えのなかに、ヒントがあると思っています。