税理士・会計士の方へ

会員インタビュー

ジェイサポート株式会社田中 麻里 2012年に税理士登録。創業70年の歴史を持つ税理士法人に入社し、中小企業を中心に顧問業務に従事。経営者に寄り添いながら、個人の確定申告、法人の決算申告、株式評価、M&A、事業承継、相続税など幅広い業務を担当。2017年からはクラウド会計を活用したバックオフィス業務の改善に力を入れ、企業の「未来」を共に創るパートナーとして、未来会計導入の実践と経営者がより良い経営判断を下せる支援をしている。

田中先生はなぜ税理士を目指したのでしょうか?

高校の経済の授業で、日本の企業のうち95%以上が中小企業であることを知りました。そのとき漠然と「中小企業を支援できたら自分は社会の役に立てるのではないか?」と感じたのです。そのため、大学は商学部に進学することを決めました。中小企業支援をする方法なら税理士以外の選択肢もありますが、昔から母に「女性は手に職をつけておくと良いよ」と言われていたことや、たまたま父が税務職員だったこともあり税理士という仕事が身近な存在だったことも大きかったと思います。 大学在学中は税理士試験を受けてはいたものの、まだ税理士になると決断していたわけでなく、一般企業への就職も視野に入れていました。しかし、就職活動をするうちに一般企業で働く自分よりも税理士として働く自分のほうが、イメージがわくことに気づきました。というのも、私は昔からリーダーのサブでサポートするポジションが性に合っていたので、一般企業の総合職でジェネラリストとして働くよりも、サポート役として専門性を突き詰めていくほうが向いていると思ったからです。それに税理士は自分の時間をデザインできる仕事ですから、時間に縛られずに何事も自由に選択できるところも自分に合っていると思いました。

MAS監査業務に携わるようになった経緯やきっかけを教えてください。

事務所に入社してから2年後、税理士登録をして税理士としての仕事をスタートさせました。お客様には税理士という資格に対して一定の安心感を持っていただけるけれども、やはり2年目ではまだできることは少ないですから、まずは基本的な税務支援をきっちりやることに注力しました。 お客様回りを任せてもらえるようになって最初に担当していたのは、事業規模が小さく業績が厳しいお客様でした。社長さんと担当者の方と私で話をしていくのですが、やはり会社の赤字を受け止めるのはつらいですから、途中で社長が離席してしまうことが何度もありました。それを受けて当時、「私は数字が悪いですねということをただ伝えに行くだけの人間なのか…」と落ち込んでしまって。数字は経済活動の結果でしかないので、それを説明するだけでは「どうしたら経営が良くなるのか?」というところまで踏み込むことは難しいんですよね。このような出来事を通して、税務の支援は経営の支援ではないということに気づきました。
その後、事務所が事業承継のフェーズに入り、「ジェイシス税理士法人がお客様に提供できる価値は何だろう?」と考える時期が続きました。そして私が社員税理士から役員の立場に切り替わったタイミングで、今後やるべきことを所長と話し合いました。「まずは会計事務所が提供できる会計をもう一度正面からとらえ直してみよう」ということになり、全面的にクラウド会計ソフトに切り替えることを決断し、所長も賛成してくれました。所長自身、迫りくるクラウド会計の波はとまらないということがわかっていたのだと思います。 そこから5年が経過し、自計化推進が形になりました。そこでようやく、高校生の頃からずっとやりたかった経営支援の段階に進んでも良いかなと思えるようになりました。自計化推進は私たちの事務所にとって目標ではなく、お客様と話す時間をより多く確保し、価値を提供するための手段でした。「お客様にとって一番良いことって何だろう?」という想いを常に一番大切に考えてきたので、それが上手く形になりはじめたのは良かったと思っています。

MAS監査業務のやりがいを感じる瞬間やお客様との印象的なエピソードを教えてください。

印象的だったエピソードとして覚えているのは、ある社長さんとのMAS会議での出来事です。普段はお客様のお話をうかがい、計画に対して発言がぶれているところがあればチェックしながら会議を進めていきます。ですが、その日は社長がずっとしゃべりっぱなしで、私が口を挟む隙はありませんでした。通常のMAS会議からしたらセオリーから外れていますから、どうしようかと戸惑ったのですが、そのお客様は2時間ひたすら話し続け、「ああやっぱりここに来ると進むわ!」と一言おっしゃって清々しい表情で帰って行きました。それが今でも印象に残っています。MAS監査には正解がないからこそ、お客様の経営課題に関する意思決定や、それによって行動が変容した瞬間に立ち会えた時に大変やりがいを感じます。 それから私、経営支援と同じくらい税務支援も好きなんです。税務の価値は、いかに平和に何も起こさず企業を存続させられるか、というところにあります。普段は地味で目立ちませんが、例えば出口戦略など会社の岐路に備えて、問題なくそれが実行できるように長期的にサポートするというところにおもしろさがあります。会社が大きな判断を迫られるようなここぞという時に税務のスキームをバチっとうまくはめることができると、めちゃくちゃ楽しいんです。とはいえ、税務のスキームで経営者の願望すべてを満たすのは難しく、どうしてもどこか痛みを伴う施策になってしまうことも多いです。だからこそ、お客様が私の提案を受け入れてくださると、信頼していただけていることを実感し喜びを感じます。 税務でも経営支援でも「田中さんがいてくれてよかった」という一言が一番モチベーションにつながりますね。

田中先生の中期的な目標を教えてください。

数字と経営者の想いに基づいた戦略的な意思決定をサポートすることが私のゴールです。そのためにどうしたらいいのかを常に考えていきたいと思っています。ですが、今は本当にまだスタートラインに立ったばかりですので、まずはMAS監査のサポート件数を増やしていきたいと思っています。MAS監査を提供できるようにしていくには事務所としての体制を整えていくことが必要です。所内の中でも担当できるスタッフをどんどん増やしていくため、研修にも力を入れ、みんなが楽しんで取り組めるような環境を作っていきたいです。 今所内で実働しているのは5人、そのうちMAS監査を兼任しているのが私を含めて3人、それとは別で専任でやってみたいという人が1人います。事務所の所員には積極的にプランナー研修を受けてもらっているのですが、今後は直接MAS監査を担当するわけではない社労士の職員にも受けてもらおうと考えています。これは、当人が「MAS監査の担当者が何をやっているのかいまいちピンとこないので勉強させてください」と申し出てくれたためです。社労士さんがプランナー研修を受けることでお互いの仕事への理解が深まることにもつながりますから、とてもいいことだと思っています。全員がプランナー認定を持っている状態が理想です

事務所運営の目標についてもお話しいただけますか?

今後の事務所の運営としては、規模の拡大や人員を一気に増やすことはせず、今の心地よい事務所の形のまま所員にとって働きやすい環境を追及していきたいと考えています。 というのも、私は今二児の母で子育てをしながら仕事をしています。一人目の出産の時は、事務所にリモートワークの制度がありませんでした。まだ小さい子どもを育てながら週5日フルで出社するのはなかなか大変で、長女が熱を出しても仕事のため奈良から大阪まで出社しなければなりませんでした。「この状態で二人目の妊娠出産は絶対に無理!」と思い、時間と場所に縛られない働き方をするために職場環境を整えました。具体的には、外で作業ができるよう一人一台ノートパソコンとスマホの支給を行い、すべての作業をクラウド化し、連絡手段もメールからチャットへ変更しました。当時は事務所に3人しかいなかったので、とにかくまずは自分が働きやすいようにしようという気持ちで制度を作っていきました。今はその制度が他の所員にも新しい選択肢を与えており、嬉しく思っています。将来は地元の東京に戻って働きたいという男性所員がいるのですが、リモートで仕事を続けられるよと伝えると本人もほっとした様子でした。 私が思う健全な働き方の最終到達点とは、“キャリアを狭めない”ではなく、“キャリアを広げるための選択肢がある”ことだと思っています。「育児があるから」「介護があるから」のようにマイナスを補うためというよりも、「アメリカの税務を学びたいから1か月研修に行ってきます!」というようなポジティブな行動をとるためにリモートの選択ができるという状態を目指したいですね。ですが、単純にリモート制度を導入すればよいというわけではなく、これを成立させるためには大切なことが2つあると思っています。ひとつは事務所全体がお互いの働き方や気持ちを受け入れ理解していること、もうひとつは一緒に働く仲間やお客様に認めてもらえるようなプロの仕事をすることです。この両輪があってこそ、時間と場所にとらわれない自由な働き方ができるようになるのではないでしょうか。

最後に、顧問先の経営支援がなかなかうまくいかないという方にメッセージをお願いいたします。

私もまだまだMAS監査の件数を増やしていきたいし道半ばというところではあるのですが、何かメッセージを伝えるとしたら、組織の中に仲間を作ることを意識してみてほしいということです。今頑張れている要因の一つに、事務所の心地よさがあります。私には、事務所の中に“中小企業の経営サポートって何だろう”ということを一緒に考えてくれる仲間がいます。そして、自社MASを通してお互いが自分の信念を持って意見を言い合い、最終的なゴールに向けて議論をすることができています。私は強いリーダーシップでみんなを引っ張るタイプではないので、全員で組織を作っている今の事務所の雰囲気がとてもやりやすいと感じています。 未来会計に取り組む人の悩みとして、事務所の中で自分の役割を理解してもらいたいけれど、自分自身が本当の意味で理解できていなかったり、自信を持てていなかったりして主張しづらいというものがあると思います。私もスタッフ時代は「自分がやっていることは本当に価値があるのだろうか?」と不安に思っていました。そのため今事務所の所員には、積極的に全国の研修や事務所見学会に参加してもらっています。そのような場でMAS監査プランナーとしてお客様に提供できることを正しく理解することで、自分の仕事の意義や価値を認識することができるのです。 今MAS監査担当者として悩みを持っている方がいたら、ぜひ組織内でMAS監査の価値を共有できる仲間を作ってみてください。そのためにも、MAS監査に取り組むための勇気になる情報を自らつかみに行きましょう。
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