MAS監査業務に携わるようになった経緯を教えてください。
大学時代は公務員になるために勉強していました。実際、国税専門官の試験にも合格していましたが、いざ就職するとなると仕事内容にどうしてもおもしろみを感じられず辞退してしまいました。就職活動をしていなかったこともあり、公認会計士にシフトチェンジして勉強しなおすことにしました。
資格の学校でアルバイトをしながら試験勉強をしていたところ、当時その学校に通っていた弊社代表の野口(株式会社IGブレーン代表取締役社長 野口 雄介氏)と出会いました。私は公認会計士の仕事内容を調べるうちに、MAS監査業務のことを知り、興味を持ちました。仲良くなった野口に「試験に合格したらMAS監査業務をやりたいんだよね!」と話したところ、「俺の父親がそんな内容の仕事をしている」と返答があったので、「業界のことを知りたいからぜひ話を聞かせてほしい」と頼み込んだら快諾してくれました。そこでご縁を頂いたのが、弊社の岩永(IG会計グループ代表 岩永 經世氏)と野口の父親(株式会社IGブレーン取締役会長 野口 俊之氏)です。
2人と話をして、見事に先入観を覆されました。会計業界の仕事は有資格者で優れた人でないとできない、能力ありきの仕事だと思っていました。しかし、社長にいい質問をして想いやアイデアを引き出し戦略に落とし込むためには、価値観や考え方が最も重要なのだと知りました。資格があればそれだけでできる仕事ではないところに魅力を感じました。何より、自分のやりたいと思っていたことが東京や大阪に出なくても地元・長崎でできる。入社を決めるのにそれ以上の理由はいりませんでした。
私は入社当初からMAS監査担当者として入社しましたが、当然、ベースは会計ですから決算業務や申告も並行して行いつつ、将軍の日や単年度の計画作成の場に同席させてもらって少しずつMAS監査業務を身につけていきました。5年ほどのOJTを経て、ひとりで担当を任せてもらえるようになりました。
これまでMAS監査を提供してきたなかで、印象に残っているお客様のエピソードをお話しいただけますか?
印象深いお客様はたくさんいますが、パッと思いつくお客様が2社あります。
1社目は、私がひとり立ちして初めてMAS監査を行った第1号のお客様です。建設業の会社で、当時は会長である父親の影響力が強く、2代目の社長は会長や幹部に認めてもらえないもどかしさを感じていました。「認められるためには数字で結果を出すしかない!」ということで、社長自身が陣頭指揮を執って①中期計画を作成、②1泊2日合宿で幹部に落とし込む、③その計画を経営計画発表会までにさらに練りこむ、④練りこんだ計画を発表する、この仕組みを作りました。取り組み始めて2年目に目標達成したことで、今まで社長のことを一度も褒めたことがなかった会長が「よくやった!」と褒めてくれました。会長が初めて社長を認めてくれた場面に立ち会えた、ということでとても印象深いお客様です。
2社目はMAS監査契約時、直近2年間で営業赤字1億円を出していたお客様です。こちらも事業承継にひと悶着あった2代目社長でした。社長はもともと専務として会社に勤めていましたが、当時の社長である父親と反りが合わず会社を追い出されてしまいました。追い出された後、別会社に勤めていたら「おまえの会社、良い噂聞かんぞ」と外から情報が入ってきたり、顧問税理士から「このままでは会社が潰れてしまう」と連絡がきたりしたことをきっかけに会社に戻り、急遽社長交代することになりました。MAS監査契約時から一緒に膝を突き合わせて改善案を模索し、1年目で2億円の利益改善をしました。3年で1億7000万円という無謀かと思えた約定返済も、約定通りに完済することができました。それ以外にもさまざまな問題がありましたが、7年かけてようやく社長の頭を悩ませるすべての問題が解決に向かい、強いストレスから解放されるところまでくることができました。当初はここまでの改善は難しいと思いましたが、①計画を作成し、②その通りに実行し、③結果を出す、この3ステップを積み重ねていくと間違いなく良い結果につながるんだ、と僕自身知ることができたのでとても印象に残っています。
事務所の特徴について教えてください。
弊社の最大の特徴は目標管理を徹底していることです。最近では業界で「自社MAS監査が重要だよね」と言われるようになってきましたが、過去にさかのぼると我々が研修会などで目標管理についてお話ししてきたことが、この考え方を広める一翼を担ったのではないかと思います。
弊社の人材ビジョンとして「主体的な人材」があります。主体的な人材とは、自分で目標設定し、達成管理ができる人材です。達成管理の過程で失敗事例や成功事例が生まれます。結果としてお客様に提供できるサービスの質が変わってくるので、とても重要視しています。そのため、月末月初の2日間は通常業務は行わず、当月の振り返りと次月以降のアクションプランの見直しに時間を充てます。
目標達成管理の時間は他の事務所よりもかなり時間を取っていると思いますね。月末月初の2日間で20時間弱。月曜週初めには全体会議が1時間程度。毎週の部門ミーティングで1時間。あと、日々の日報管理が10~15分ですね。最低でも月40時間を目標達成の時間に費やしています。具体的に何をしているかというと、全体会議は毎週月曜日に社員全員が集まって、岩永が発信している『考える言葉』の解説を聞き、1週間の振り返りを発表し合います。部門単位では、1週間の振り返りとリスケを行い、軌道修正します。個人単位では、時間管理とその日の気づきを振り返るために日報をつけています。
組織全体から部門、個人に落とし込むための目標のシェアを大事にしています。この質の高さが業務の質の高さに直接かかわってきますので、優先度高く、時間を取って目標管理に取り組んでいます。
山本様の中長期的な目標を教えてください。
今年の1月、九州にある4つの会計事務所と共同出資し、新たに一般社団法人 共創経営推進機構という会社を立ち上げました。この会社は「中小企業から倒産をなくすことに寄与したい」という大きな目的のもと設立しました。
私がIGブレーン福岡営業所の所長になり、金融機関や団体、企業とのお話を通して感じたことは、「ひとつの事務所でできることなんてたかが知れている」ということです。弊社はMAS監査業務を昭和59年創業から40年近く一貫して取り組んできました。そのため、業界における認知度も高く「IG=未来会計」だと言ってもらえる自負はありますが、事業承継やM&A、DXなどの顕在化しているニーズ全部に対して、MAS監査と同等のクオリティーを提供することは困難です。しかし、お客様が直面している問題なので何とかしなければなりません。
そんな私たちの困りごとは、私たちだけのものではないことも感じていました。そして、それぞれ別の強みを持つ者同士が手を組み、会計事務所の特殊業務をサポート、あるいはレベニューシェアするというサービスを提供できる会社があれば、会計事務所にもその先のお客様にも貢献できると思い至りました。そんな時に、九州で急成長しているいくつかの会計事務所とのご縁を頂き、協業の可能性を探るようになりました。お声がけした先には想定していたよりもずっとスムーズに受け入れていただけて、IG会計グループ代表の岩永にも背中を押してもらい、今年ついに一般社団法人設立の運びとなりました。
お客様とお話ししていると必ず話題になるのは人材不足です。「会計業界には人材がいない」「良い人材は入ってこない」、そんなことは十数年前から言われています。その理由は単純明快で、生産性が低いから良い給料が出せない、これに尽きます。1人当たりの生産性が700万円や800万円では、優秀な人材は入ってきません。だからこそ今後の目標として、会計業界に携わっている現在20代の方々が、10年後に今の私たちよりも生産性が高く、所得も高い世界を作ってあげたいと思っています。そういう環境になれば比例して、中小企業に対する貢献度も今よりずっと高くなると思うのです。この目標を達成するには私だけでは絶対無理ですし、IGグループだけでも絶対無理です。それぞれ違う得意分野を持ち、かつ同じ志を持っている事務所同士の連携が、他の地域の刺激になる。そうやって個の限界、事務所の限界を超えて業界全体を盛り上げていきたいです。
未来会計に携わる方々へメッセージをお願いいたします。
特に今の20代、30代の未来会計に携わる人たちへ伝えたいことは、何かひとつ強みを選択して磨き上げてほしいということです。どの分野でもいいので求められる会計人になってほしいです。これからは中途半端に「なんでもやります」は通用しない時代です。会計人としてのキャリアアップを考えるにあたって、中小企業への貢献のあり方はいろいろな手段があるので、未来会計に限らずとも「これだけは誰にも負けない自信がある」と言えるような特化できる分野を見つけてほしいです。
私は未来会計に魅力を感じたので、未来会計に特化していく選択をしました。未来会計の一番の魅力は、社長と戦友になれることです。この仕事は良い時ばかりではないし、むしろ大変な時のほうが多いくらいです。それでも社長と一緒に取り組んでいくなかで、その会社の歴史を知ることができるので、生き字引のような立ち位置になることもできます。社長から「お前がいないとだめだ」と言ってもらえるのは未来会計に取り組む人間の特権です。未来会計はこれからもっと必要とされる時代になるので、動いた分だけ結果は出ます。未来会計に少しでも関心を持っているならば、腹をくくってわき目もふらずやり抜いてほしいと思います。
自分の強みを活かして中小企業に貢献することももちろん大事なことですが、自分自身が経済的にも精神的にも豊かになっていくことが大事です。自分の人生を豊かにするってめちゃくちゃ大事なことだと私は思っています。やりがいを感じられる働き方ができて、仕事が楽しいと心から感じられる会計人が増えたら、それを見た次の世代の子どもたちに「こういう仕事がしたい」「会計業界に触れたい」と思ってもらえますよね。会計業界がそのような世界になることを期待しています。